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◆出発前

 昭和63年、青函トンネル開業と共に上野〜札幌で運転を始めた寝台特急「北斗星」、実は数回しか乗ったことがない。それも道内のスケジュールや新幹線接続の関係で函館〜郡山などの中途半端な区間だけで、全区間通しでは乗ったことがない。いつかは乗ってみたいねと思っていたものの、その後、北海道へ移動のメインは飛行機になってしまい、ますます北斗星は遠のき、そしてますます「憧れの的」となってしまった。

 いや、「憧れ」と書いたものの、実は北斗星で行く北海道は妙な違和感を抱いていたのも事実。夜遅い東北本線を疾走した最終の「はつかり」、青森の薄暗い連絡船待合室と深夜の乗り換え。

 

 ドラの音と蛍の光と共に出港した「摩周丸」、大揺れで船酔いに苦しんだ座敷席、体を折り曲げて眠った普通船室椅子席、座る場所が見つからなくて、プロムナードデッキで一晩中佇んだ夏の深夜便。

 

 早朝4時、頭がハッキリしない中で特急「北海」の自由席確保のために、連絡通路とホームを延々走った「函館マラソン」。

 過去の北海道旅行の思い出の中には、決して主役にはなれないけど、これらの名脇役が必ずセットで刷り込まれていた。そんな思い出の舞台である青森も函館もスルーしてしまう北斗星は、確かに目が覚めたら北海道という新鮮さはあったが、それと同時に何か大切なものを亡くしてしまった寂しさに覆われてしまうのが違和感の正体なんだと思う。

 などと戯れ言はともかくとして、登場から20年を経て初めて全区間を乗れることになった北斗星のロイヤル。カシオペアが登場したことで以前のようなプラチナチケットではないが、それでもタイミングが悪いと20年経った今でもなかなか取れないのは確か。そんなチケットを自宅で簡単に取れるようにしてしまったJR北海道に感謝と賛辞を贈り、そして、これは私の知ってる夜行列車じゃないんだろうなという予感を抱いて北海道に飛ぶ。

 



◆2007/05/26

 二ヶ月前、いったいどこに行こうとして超割で予約したのか、さっぱり思い出せないのは問題だが、ともかくANA51便で新千歳に飛ぶ。B747で今回は2階席、優先搭乗でさっさと乗り込み席に着くと、窓越しにPBB内の搭乗渋滞が見えてニヤリ。あの渋滞に巻き込まれないだけでも優先搭乗の価値があるというものか。

 ちょうど一ヶ月前にも同じ51便に乗っているが、あの時よりも大分混んでいる感じで、パッと見たところ私の周りはほぼ満席。やはり4月より5月、5月より6月の方が観光で北海道に向かう人が多いのだろう。

 

 新千歳に到着後、駅で搭乗券半券を見せて「北遊きっぷ」を購入。この切符、札幌を中心にして北は旭川、東は帯広、南は長万部までの区間が特急自由席含めて乗り降り自由で3,000円。普通に切符を買えば、新千歳空港〜札幌を往復するだけでも2,000円ちょっとかかるので、もう十分すぎるほど元が取れる。

 

 快速エアポート91号で札幌に向かう。指定席uシートは空港からのお客で大体50%程度の乗りだが、自由席の方は、途中駅から札幌に向かう地元の人達で結構な混雑。指定席車のデッキに立つ人も多いが、30分前後の乗車時間なので指定席に移動してくる人は殆どいない。




 札幌到着後、みどりの窓口で今夜の北斗星の切符を引き取り、朝食用の弁当を買ってから、とかち3号で今来た道を戻ることにする。

 

 とかち3号、札幌側の車は1550番代だが、

 

 帯広側の先頭車はゲンコツノーズの初期車。中間車も初期車や500番代が混じっていいて趣味的には楽しいが、性能的にはどうなんだろうと思う。各車両のエンジン出力はバラバラだし、どうやってバランスを保っているのか、素人ゆえに気になってしまう。

 

 一番空いている自由席、最後尾6号車の1550番代車に落ち着くことにしよう。隣の5号車の方がずっとお客が多いが、この5号車、初期型の簡易リクライニングシート。ハッキリ言って、座り心地はお世辞にもいいとは言えないのだが、なんでこちらを選ぶ人が多いのか、ちょっと不思議な光景でもある。確かに木目パネルが多用されている関係で、パッと見た感じでは豪華に見えるが。

 南千歳から石勝線へ。かつて、新夕張を過ぎると正に人跡未踏の地といった雰囲気だったのが、今は高速道路の建設が進み、あちこちで建設中の橋脚を見ることが出来る。道東への短絡線として誕生し、283系の登場で言わば一人勝ち状態だった石勝線だが、この道路が出来る頃、どんな厳しさが待ちかまえているのだろうか。

 前は石勝高原と名乗っていたトマム駅を過ぎ、しばらくすると左側に根室本線の線路が見え、トンネルに入る。このトンネルが新狩勝トンネルで、根室本線とはトンネル内で合流する。

 

 そのトンネル内の信号場で対向列車待ち合わせ。やって来たのはスーパーとかち6号。

 

 トンネルを抜ければ新得の町まで一気に駆け下りる。内地の峠越えは、森林の中を急カーブで越えていく路線が多いが、ここは違う。広大な牧草地の中を大きなカーブを描き進んでいくそのスケールは、もう全然違うと言っていい。新線になったことで景勝は奪われたと言われる狩勝峠越えだが、今でも日本三大車窓の一つといっても十分に通用するだろう。




 帯広まで行ってしまうと滝川行き普通列車に乗れなくなってしまうので、芽室で降りることにする。

 

 この芽室、完全に私の不勉強だったが降りる人も多く、街も想像していたのよりずっと大きい。いや、駅と中心部が離れている街が多い中、駅周辺の様子だけで判断してしまうのは駅前旅行者の悪い癖だが。

 18分の待ち合わせ、2434D滝川行きで折り返す。入ってきた列車を見ると通路に立ち客が見え、まだ18シーズンでもないのにと一瞬焦ったが、よく見ると多くがここで降りる人の模様。改めて芽室という街の大きさを思い知らされる。

  

 先ほど通った新得にもう一度。ここで10分の小休止。この先に控える狩勝峠越えを前に鋭気を養う。

 

 新得を出発してすぐ右側に蒸気機関車、D51が保存されてるのが分かる。手前の茶色い細い道、どうやらこれが旧線跡のようで、かつてはそこを走っていたらしい。新線切り替え後も、しばらくは狩勝実験線として急勾配での列車脱線実験や研究に使われていたが、今はそれも廃止されている。

 

 内地では有り得ない光景をもう一度見ながら列車は進む。が、

 

 昔はこんなフェンスなど無かったはずだが……

 

 車内は各ボックスに一人か二人程度の乗車率。これが18きっぷのシーズンになれば、きっと多くの18きっぱー達で賑わうのだろう。

  

 山中の信号場で後続の特急列車を待避。猛スピードで過ぎ去って行った列車は、先程まで乗っていたとかち3号が帯広で折り返してきた列車。こちらの存在など、まるで意に介さぬように、あっという間に通り去っていく。

 落合側の出口が二股でYの字状態になっている新狩勝トンネル内で石勝線を分岐し、峠を越えれば落合、そして幾寅、その先は空知川に沿って進む。TVドラマ「北の国から」で、いしだあゆみの乗った急行狩勝が空知川沿いに走るシーンは秀逸だったと書いても、若い人達はピンと来ないだろう。何しろ、このシーンが放送されたのは1981年頃のことだから。

 富良野で多くの乗客が入れ替わり、今度は富良野観光を終えた人達を多く乗せて、一路、滝川へ走る。

 

 16時52分、定刻に滝川到着。狩勝峠や空知川など、いかにも北海道的な風景を楽しめる車窓だったが、3時間半に渡ってキハ40の直角座席に座るのは、もう肉体的に厳しい。ぶっちゃけて言えば「お尻が痛い」。

 滝川で札幌に向かう特急ライラックを待っていると、コイツがやって来た。

 

 岩見沢行き2268Mの711系。これよりも新しく、ライラックに使われている781系の引退が決まった今、また、一部は3ドアに改造される中、こうしてオリジナルの状態で活躍中の姿に嬉しくなる。さすがに、札幌圏で見かけることは少なくなったが。




 さて、ライラック18号で札幌に戻り、いよいよ北斗星の出番である。まだ時間があるので駅から出て、コンビニで今夜のビールやつまみ類、コンコース内の売店で弁当を確保しておく。残りの時間はこんなのを撮って過ごす。

 

 室蘭からやって来た、すずらん7号。国鉄時代、北海道の寒さと細かい雪を考慮し、北海道専用車として作られた781系電車も、この秋には姿を消す。

  

 これから釧路へ向かうスーパーおおぞら11号、283系ディーゼル車。「FURICO283」のロゴも誇らしげに、今日も車体を傾かせながら、石勝線や根室本線を吹っ飛ばす。

 そして19時を過ぎた頃、青く塗られたDD51重連に牽かれて北斗星が入ってくる。

 

 ホームからはみ出して止まるので、機関車の顔を撮ることは出来ない。

 この時間の札幌駅、飛行機で帰るため新千歳空港に行く列車待ちで、何度となくこの北斗星を見ていた。何度となく指をくわえながら眺めていたが、今日は指をくわえる必要はない。やっと乗れるんだから。

 切符を見ると指定された部屋は3号車2番とあり「?」。普通、ロイヤルが連結されているのは9号車か10号車だが、調べると、この時期に限っては開放式B寝台車を個室メインの車両に入れ替えるらしく、こういうことになった次第。よく見れば、ホームには添乗員さんに引率されたおじさんおばさん団体がいっぱいいるわけで、なるほどと納得。直前でロイヤルが取れたこと自体、部屋数が増えていたのも関係あるのだろう。

 今宵の寝場所となる自分の部屋を外から眺めていたら、親子連れが入り込んで中で記念撮影。登場から20年近く経ちながらこんな光景が見られるのも、やはり北斗星が独特の世界を作り上げているんだと思う。

 と、ホームでボーッとしていたら、なぜか北海道にいた北天さんがやって来て、時間までしばし談笑。先行する函館行きスーパー北斗22号の発車を見ながら、思わず「乗りてぇ」と呟いてしまうあたりで、二人の意見の一致を見る。(笑

 そろそろ発車時間ということで、北天さんのお見送りを受けながら車内へ入る。

  

 3号車の通路とロイヤルの室内。大きなソファとパンフレットがが出迎えてくれる。

 

 一人で寝るには十分すぎる大きさのベッド。大きな窓も独り占め出来る。

  

 ベッドから見た出入り口と液晶モニタ。モニタはテレビは映らないが映画は放映されている。今日流れていたのは「ハイジ」、さすがにVODではないが、上野到着近くまでずっと繰り返し放映されていたので、いつでも見ることが出来る。

 少し遅れて札幌を発車する。客車列車らしい静かな加速。決してスピードは高くないが、遅いことで逆に貫禄として感じてしまうのが、この列車の風格を現していると言ってもいいだろうか。

 しばらくすると「ハイケンスのセレナーデ」のチャイム、そしてJR北海道の車掌さんによる案内アナウンスが流れる。上野まで16時間にわたる道のり、北斗星で過ごす一夜が、今、始まった。



第2部へつづく

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